「伯爵。あなたには公金横領、脅迫等の嫌疑が掛けられている」


 ピクリ。ほんの僅かだが、伯爵の表情が固まる。

 けれど、それは本当に一瞬のことで、彼はすぐに大きく首を横に振った。


「何を仰るかと思えば。この私が、そんなことをするはずがないでしょう」


 伯爵はクックッと喉を鳴らして笑う。先程まで真っ赤だった彼の顔が、今は土気色をしていた。


「財務大臣の私が公金横領?御冗談を!まさか、そんなくだらない疑いのために、私は大臣職を解かれたのでしょうか?冤罪もいいところです。いくら殿下とはいえ、看過できませんよ」


 少しずつ、少しずつ、声から覇気がなくなっていく。
 コーエンはニコリと微笑みながら、伯爵の側に屈んだ。


「冤罪?そんなこと、あるわけないだろう?」


 その瞬間、伯爵はカッと目を見開き、今にも噛みつかんばかりの勢いで身を乗り出した。けれど、騎士たちに押さえつけられた身体は、ピクリとも動きはしない。伯爵の唇からは、だらりと血が流れだした。


「キッカケはそう――――マッケンジー家の領地で、密猟が複数確認されたことだった」


 コーエンの言葉に、クララはカールを仰ぎ見る。

 こんなにも大勢の前で、マッケンジー家の名が――――密猟の件が明らかにされることは本意ではなかったのだろう。眉間に薄っすらと皺が刻まれていた。


「始めは、領民たちが己の判断で密猟を始めたのだと思っていた。生活に困り、致し方なく手を染めたのだと――――。けれど、話を聞いていくうちに、マッケンジー家が密猟の許可を与えたのだと分かった」


 コーエンの説明を聞きながら、クララも一連の出来事を思い返す。

 ふとレイチェルを見れば、彼女は涙目で伯爵を見下ろしていた。