「何故?……本気で理由が分からないのか?」


 ゾクッと震えあがるほどに怒気を孕んだ声。クララはコーエンを覗き見ながら、ゴクリと唾を呑み込んだ。


「始めに言っておくが、クララは今回のことに関係ない。スカイフォール公爵もだ」

「せっかく穏便に――――出来る限り内密に済まそうと屋敷に出向いたんですが、わざわざ衆人環視の断罪を望むなんて……義父上は相当な目立ちたがり屋ですね」


 振り向けば、クララのすぐ隣に、ヨハネス王子が佇んでいた。柔和な笑みを浮かべてはいるが、瞳が全く笑っていない。彼の後には、青白い顔をしたレイチェルが立っている。


「貴様っ!私を裏切った分際で『義父上』などと……白々しいっ!大体、断罪とはなんだ!私は何もしていない!大臣職を解任される謂れもない!分かったら、さっさと陛下に取次を――――」
「できぬと言っているだろう!」


 ヨハネスの反対側から響く、力強い声音。見ればそこにはカールがいた。騎士たちを率いるように背を向け、真っ直ぐに伯爵を睨みつけている。


「自分がどうしてこのような扱いを受けているのか、本当に分からないのだな?」


 コーエンを中央に、ヨハネスとカールが脇を固める。それぞれが放つ独特なオーラに加え、三人揃えば圧巻だ。物凄い威圧感である。


「当然だっ!全く、身に覚えがない!」


 伯爵はそう言ってニヤリと笑う。けれど、彼の額には汗が滲んでいた。


「――――仕方がない。では、この場であなたの罪を詳らかにしよう」


 コーエンはため息を吐きながら、ゆっくりと目を瞑った。