「だって、仕方がないじゃない。どんなに望んでも叶わないなら、遠く手の届かない場所に行くべきだわ。中途半端じゃダメ。それが、互いのためだもの」


 レイチェルの物言いは抽象的で、何を、誰を指示しているのかは分からない。けれどクララには、何を言わんとしたいのかは分かる気がした。


「だから、私は王妃になるの。いつか『仕方がなかった』って諦められるように。あの人が愛してくれた私は、この国で一番の女なんだからって。そう思える日が来たら良いなぁって」


 そう口にするレイチェルの瞳には、哀愁と未練が色濃く残っている。


(レイチェルも同じなのだろうか……)


 王太子妃という位を、その地位を手にする過程を利用して、己を納得させようとしている。彼女にとって王太子妃とは、目的ではなく手段なのだろう。


「でも、ダメね。いつまで経っても中途半端。あの人を忘れることも、助けることもできなくて。ホント、自分が嫌になっちゃう」


 レイチェルは、今にも泣き出しそうな瞳で笑っている。クララは小さく笑いながら、そっと首を傾げた。


「そう?わたしはあなたのこと、結構好きだけど」

「ちょっ……!はぁ!?気持ち悪いこと言わないでくれる!?」


 心底気持ち悪そうに己を抱き締めながら、レイチェルは身体を震わせる。


(んーー割と本心なんだけどなぁ)


 そんなことを思いながら、クララはもう一度声を上げて笑った。