「前に『この国で一番の女になる』って言ってたけど……それって父親のため?あなた自身のため?確かに王妃になることは名誉かもしれないけど、何だか聞いてて違和感があるのよね」


 レイチェルは確かに高慢ちきな令嬢だが、名誉のために動いているのか、と問われれば、そんな風には見えない。彼女の行動原理はどこか幼く、名誉といったものより、もっと単純な感情に突き動かされているように見えるからだ。


「あっ、まさかとは思うけど!ヨハネス殿下が好きだからってことはないわよね?」

「ちょっ……あなたって本当に失礼な人ね。それ、本人の目の前で言ってみなさいよ」


 レイチェルはそう言って、吹き出すように笑った。普段の好戦的な瞳が少しだけ丸く、穏やかなものに変わっている。レイチェルはそのまま、ゆっくりとクララの隣に腰掛けた。


「そうね――――確かに私は、口で言う程、王太子妃になりたいと思っていないのだと思う」


 まるで自分の頭の中を整理するかの如く、ポツリ、ポツリとレイチェルが呟く。クララは少し険の取れた彼女の表情を覗き見ながら、そのまま口を噤んだ。