コーエンの王としての適性を示すこと。そんな頼りない方法よりも余程強力で、可能性の高い方法。ヨハネスとの会話の中でようやく、クララはその存在に気づけた。

 クララはともすれば、コーエンの決断の足枷になりうる存在だ。コーエンの後押しをするためにも、己の未練を断ち切るためにも、今ここで退路を断ってしまう。その方が良いように思える。


「分かりました」


 クララはそう言って、ゆっくりと目を開ける。


「約束します。もしもフリード殿下以外の方が王太子の位を手にしたら――――わたしはヨハネス殿下の妃になりましょう」


 ヨハネスは一瞬だけ目を見開き、それから満足気に微笑む。


「交渉成立だね。……それで?姫君は何をお望みなのかな?」



 ヨハネスはその日のうちに、あまりにもあっさりとクララの願いを叶えてくれた。

 対価の釣り合っていない契約。傍から見ればそうなのかもしれない。

 それでも、クララは満足だった。