「どうせ何企んでるか聞いても、教えてくれないんだろう?それに、別に目的とか理由とかどうだって良い。一緒に仕事したら早く終わるし、その分長く一緒にいられるし」


 そう言ってコーエンはもう一度、唇を寄せてきた。不意にもたらされた甘さに、心も身体も蕩けそうになる。先程よりも少し長い口付け。

 名残惜しそうにクララを解放したコーエンの唇は、そのままそっとクララの耳元へと寄せられた。


「――――一空いた時間で俺とデートしよ?打ち合わせとか一切抜きの、ちゃんとしたデート、行きたいんだけど」


 囁くように懇願されてはどうしようもない。気づけばクララはコクコクと頷いていた。


(コーエンはズルい)


 こんな風に言われて、断れるはずがない。
 ポンポンと頭を撫でられながら、クララは小さくため息を吐いた。


「えぇっと…………」


 半開きになった扉の向こうから聞こえる躊躇いがちな声。次いで声の主であるフリードが、恐る恐るといった様子で顔を覗かせる。クララはビクリと身体を震わせた。


「終わった?」


 頬をポリポリ掻きながら苦笑いを浮かべたフリードに、クララの頬が真っ赤に染まっていく。コーエンだけが一人、平然とした表情を浮かべていた。
 あまりのことに、クララはワナワナと身体を震わせる。


(金輪際、公私混同禁止!もう絶対執務室でこういうことはしない!何があっても絶対、流されないんだから!)


 心にそう固く誓いながら、クララは盛大なため息を吐いたのだった。