「なぁ、クララ」


 数日の間に溜まっていた書類の山を片付けながら、コーエンがぼそりと呟く。けれど、コーエンの呼びかけはクララには聞こえていないらしい。熱心に羽ペンを走らせる音だけが執務室に響いた。


「おーーい、クララ」


 あまりの反応の無さに焦れ、コーエンは徐に立ち上がる。先程よりも大きな声。けれど、それでもクララには聞こえていないらしい。


「――――最近根詰め過ぎじゃない?おまえ」

「…………ふぇっ!?」


 耳元で唐突に響いたコーエンの声に、クララはビクリと身体を震わせた。

 振り向けば、若干不機嫌そうな表情のコーエンが、クララをじっと見つめている。後からギュッと抱き寄せられ、椅子に身体が縫い付けられて動かない。


「根詰め過ぎって、どういう……」

「狩から戻って来てからさ、これまで以上に張り切って仕事してるように見えるけど、違った?」

「それは……その…………」


 コーエンの見込みは間違っていない。

 クララの働き方は、明らかにこれまでと異なっていた。

 自分から積極的に城内を回って人脈を作り、出来る限り多くの情報を手にできるよう手を回した。そうしてできた人脈を基にいくつも仕事を持ち帰っては、時間外にひとり、それらを片付けている。


(バレないようにしていたつもりだったけど)


 コーエンはちゃんと、クララのことを見てくれていたようだ。嬉しいような恥ずかしいような、複雑な気持ちである。