そうこうしているうちに、何か大きな物体が地面に倒れ込むような音が響く。
 コーエン達に取り囲まれた大きな熊だったものは、もうピクリとも動かない。

 先程までちっとも動かなかった指先に、血が通い始めたのだろうか。クララは構えたままになっていた剣をようやくゆっくりと下ろした。


(嘘みたい……生きてる!助かったんだ…………!)


 まるで、恐怖で止まっていたクララの時間を巻き戻すかのように、膝がガクガクと震えだし、身体中に嫌な汗が流れる。真っ白になった手のひらを見つめながら、クララは己の身体をギュッと抱き締めた。


「クララ、ほら」


 フリードがそう言って、コーエンの方をチラリと見る。クララもつられて視線を遣れば、コーエンがクララに向かって大きく手を振っていた。

 屈託のない太陽のような笑顔。底知れない安心感に、クララは笑顔を浮かべる。


(やっぱり、コーエンには敵わないなぁ)


 ふふ、と小さく笑いながら、クララは熱を帯びていく頬で、両手を温めたのだった。