(クララってあのクララだよな!?狙われてるって……!?)


 心臓がバクバクと鳴り響き、自然と眉間に皺が寄る。頭の整理ができず、呆然と立ち尽くしていると、フリードがクスクスと笑い声を上げた。


「ボク達の代わりに、随分皆とやり取りしてくれたからね。『可愛くて優しい』とか『癒される』とか『めちゃくちゃ良い子』だって、いつの間にか大人気になってたらしいよ」

「…………へーー、そう。じゃぁクララの希望通りになったわけだ。良かったじゃん」


 そう言ってコーエンは引き攣った笑みを浮かべた。

 今さら気にしていない振りをするには無理がある。けれど、そうと分かっていても、コーエンは虚勢を張る。それが幼い頃からの彼の癖だった。


「そうだね。クララはすごく良い子だから、とびきり良い男に見初められて、幸せな結婚をするよ、きっと」

(良い子、ねぇ)


 心の中で呟きながら、言い知れない違和感がコーエンを襲う。

 『可愛い』とか『癒される』とか『良い子』だとか――――そんなありきたりな言葉では、クララを表すことなどできない。そう、言ってやりたくなった。


(リアリストな癖に夢見がちだし、負けん気は強いし、努力家でその辺の男よりずっと有能で)


 クララを幸せにできるのは、フリードの言う通り、『とびきり良い男』だけだろう。自分で何でもできる彼女を甘えさせてあげられる度量がなければ、恋人役など務まらない。あの意地っ張りな少女を笑顔にすることなど、到底できないのだ。