「ねぇ、コーエン」


 そう尋ねたのはフリードだった。ぼんやりと窓の外を見つめながら、微笑みを浮かべている。


「なに?二人きりなのにそっちの呼び方?」

「だっていちいち変えてたらややこしいし、こっちの方がしっくりくるから」

「確かに」


 答えながらコーエンはニヤリと口角を上げて笑う。

 クララは今、礼部から報告書を受け取るため留守にしている。まだ出掛けて数分程度だというのに、随分と執務室がもの寂しく感じられるから不思議だ。


「そんで?どしたの?」

「いや……よくクララを一人で礼部に行かせたなぁって思って」


 フリードは穏やかに目を細め、コーエンを見つめる。言われている意味が分からず、コーエンは小さく首を傾げた。


「そんなの、これまでだって普通に行かせてただろう?」

「うん。でも、聞けば最近、礼部の連中の目つきが変わってるらしいよ。……皆、マジでクララのこと狙ってるんだって。どうする?コーエン」

「は!?」


 思わぬことに、コーエンは身を乗り出していた。