婚約したてのお熱い二人と一緒の馬車に乗る勇気は、私にはなかった。独り者の疎外感しか、そこには存在しないことがわかっていたから。

 美麗な容姿を持つ王太子のコンスタンス様は、彼の姿を見た誰もが想像する通り礼儀正しく紳士的。初めて美形の王太子をそっと横目で見る訳ではなく、きちんと目を合わせて会話したけれど、彼は自己紹介を終えたと同時にとある自分の部下の行いを詫びた。

 別にあの事はコンスタンス様が悪い訳でもなんでもないのだけれど、確かに彼が上司で監督責任が行き届かなかったと言えばそうなのかもしれない。名目上とは言え、代々の王太子が我が国レジュラス主力である王宮騎士団の団長職に就いているはずだから。

 こうして少し話しただけなのに、現王太子が婚約者ラウィーニアを愛していることは、本当に良く分かり過ぎるほどに分かった。彼女を愛する一人の従姉妹として、非常に喜ばしい限り。

 コンスタンス様に、目的地まで二人と一緒の馬車に乗るかと誘われた。

 それを礼儀正しく丁重にお断りして、私はいくつかの先頭を行く小さな馬車へと乗り込んだ。王太子なのでお忍びの遠出とは言え、目立たないようにしながらも厳重な警備が敷かれているようだ。