薄紫のドレスは回るたびに優雅に翻り、私はランスロットの整った顔に向き直った。

 私は今まで付き合ったのはクレメントの一人だけだけれど、ダンスならもちろん他の男性とも何度か踊った事がある。その中でも、今踊っている彼とは群を抜いて踊りやすかった。

 夜会と言えば、ダンス。もちろん。そう言った名目上の目的の他にも、貴族同士の政治的な社交や商談。そして、色々な駆け引きの場などでもあるんだけれど。もうひとつの大きな役割といえば、男女共に未婚者には、目上の紹介なく声を掛け合えるという格好の出会いの場であった。

 そして、踊っている最中にチラッと視界の端に捉えたのは、元彼クレメント・ボールドウィンだった。彼が居る場所とは結構な距離が空いているはずなのに、一目見てわかるほどに見栄えの良い美しい令嬢と機嫌良く踊っている。

 ランスロットと今こうして踊っている私も人の事は言えないのだけれど、切り替えが早いとぼんやりと思った。

 私の元彼であるクレメント・ボールドウィンは、私と付き合い始める一年前まで何人かの令嬢と浮き名を流してはいたらしい。だから、そんな女性たちから彼が私と付き合うようになってから「貴女なんて、どうせ遊びよ」とか「すぐに捨てられるわ」と、お茶会や夜会ですれ違いざまに意地悪な言葉を言われることは良くあった。

 デビューしてすぐで、気の利いた会話が出来る訳でもなく女性的な魅力に溢れているとは言い難い私が選ばれたのが、彼の事を好きだった彼女たちにはどうしても腹に据えかねたのだと思う。