そして、彼女を知ったその時に城近くにある大きな木の上に居たのは、ただの偶然だった。木の上に上ったのは、城で勤め始めて初めてだった。

 その前の晩は仕事で夜を明かしてしまうほど大掛かりな犯罪集団の摘発にが駆り出されたのだが、騎士は定められた人数で城を常に守らねばならないため、その日に決められていた勤番は何があろうと変わらない。

 徹夜のままで昼の任務に就くしかないのだが、色んな業務を立て続けにこなしその日ばかりは本当に疲れていた。

 木の上で葉に隠れて少し眠ろうと思ったのは、ただの気まぐれだ。昨夜の事を知れば、上司もお目溢しをしてくれるだろうが。彼の立場上、サボっている部下を見つけた以上は怒らない訳にもいかない。

 木の上ならば、自分が少々眠っていても誰にも見られないだろうと思っただけ。太い幹の上で眠りにつく体勢を整え、目を閉じようとしたその瞬間に可愛らしい声が根元辺りから聞こえてきた。

「……ラウィーニアが、羨ましい! 私だって、コンスタンス様みたいな美形の王子様の婚約者候補になりたかったわ」