身体に再度どこかに吸い込まれた感覚がした後、クレメントが差し出した手を持ち一瞬で森の入り口に行く前に居た宿屋の受付などがある一階に立っていた。

 魔力の持つ人が使用することの出来る移動魔法は便利ではあるものの、自分以外の誰かの所有物だと、こういった公共の場所にしか移動が出来ないという制約などが課せられている。

 素早くパッと手を離した私に、彼は眉を寄せ不機嫌な表情にはなった。自分は要らないからと捨ててしまった玩具が人の手に渡ることになり、それを惜しがる様子を見せる幼い子どものように手放したはずの私のことも、惜しくなってしまったのだろうか。

 思い返せば彼と付き合っていた頃の私は、クレメントのして欲しそうな事を常に探っていたような気がする。つまらない女だったと、評されてしまう訳だ。

 自分の事が大好きで常に嫌われたくないと振る舞っている事が丸わかりの恋人なんて、クレメントのような人間が出来ているとは言い難い自分勝手なところのある人に軽く扱われてしまっても仕方がない。

 何を言ってもしても嫌われないのなら、態度もだんだんと尊大になっていくだろう。これが許されるのならと、彼の態度は次第に悪化していったことも、確かに自然の摂理ではある。そうして、彼の心の中で紙よりも軽くなってしまった私の存在価値。