誰もが沼という言葉を聞けば、この光景を想像するような、いかにも沼らしい大きな沼を前にして、私とクレメントの二人は佇んでいた。

 真ん中辺りに小さく浮き島となっている部分があるんだけど、グウィネスの話では必要としている薬草はあの場所に繁殖しているらしい。辿り着くにはねっとりとして見える黒い泥に足を埋もれさせながら、沼の中を歩いて進むしかない。

「……俺が、一人であそこまで取りに行ってくるから。ディアーヌは、ここに居てくれ」

 騎士道に則り、クレメントはそう申し出てくれた。王都育ちの私は、こんな何が居るかも見ることの出来ない沼を見るのは、これが産まれて初めてだ。完全に尻込みして居たのも、確かだ。

 こくんと一度大きく頷いたのを確認し、クレメントは短い外套を脱ぎ、それを何故か私へと渡した。