この物語の始まりは、私が金曜日のあの日漫画を落としてしまったことから始まった。
「嘘、、ない。」
学校からの帰り道、ふとカバンの中身を見るといつもカバンの中にあるはずの漫画がないことに気づいた。
「…まずい。。」
私は咄嗟に来た道を戻る。
その日私が忘れたのはTL漫画。そんなのがもし学校のどこかに落ちているのがバレたら。。。。
そんな想像を頭にめぐらせながら校門を潜り、早足で教室までの階段を登った。
教室まで着くと、2年B組に入り自分の机周りを探る。
「ない、どこに落としたんだろ。。」
自分の記憶の限り落としてそうな所は探したが、見つからない。
数分、私がしきりに探していると後ろから声が聞こえた。
「これ落としたの、もしかして神楽坂さん?」
振り返ると、見覚えのある顔がそこにあった。
「…は、早坂くん」
彼は私の目を真っ直ぐ見ながら言った。
「あ、名前知ってたんだ。」
そう、彼は言う。
多分学年全員が知ってるであろうこの男、早坂 春樹(はやさか はるき)は入学当初からスタイルや顔のスペックの高さで有名だった。その上運動神経抜群で成績優秀。非の打ち所がないとはこの人のことを言うのかというレベル。そんな彼とは、今年初めて同じクラスになったけど特に話したことも無くよくしらなかった。
「あ、これ神楽坂さんのでしょ」
彼の手に握られている本を見て背筋が凍る。
だって、それはさっきから私が探してるあのTL本だから。
いやでも、まだバレてない。大丈夫。落ち着け、違うって言えばいいだけだ。
「…違うけど。なんで」
「じゃあ何探してたの?」
「…消しゴムだけどなかったからもう帰るつもり。じゃあさよな…」
早くその場から離れたくて話しながら早坂くんの横を通り過ぎようとした時、腕を掴まれた。
「ちょっ…何。」
「目、泳いでるし動揺しすぎだよ神楽坂さん。」
「き、気の所為じゃない?私用事あるから早く帰らないといけないの。離して。」
「俺、これ神楽坂さんのだって知ってるよ。だってこれいつも読んでる本に挟んでる栞これにも挟まってたよ。」
言い逃れできないほど追い詰められたのは初めてだった。
これでも違うって言い張るの?とでも言いたげな顔で私を壁に追いやる。
「…そうだったとして、何?からかうつもり?言いふらしたりする訳?勝手にすれば。帰る。」
恥ずかしくて早く帰りたい。私は早坂くんの腕から逃れようとする。でも早坂くんははなしてくれない。
「しないよ。誰にも言わない。でも聞きたいことがあるんだけど聞いていい?」
「…なに、嫌。」
「神楽坂さんってこーゆーのしてみたいって興味あるの?」
「……意味わかんないしらないもう帰して。」
勢いに任せて早坂くんを押しやると、漫画を置いて教室から逃げ出した。
そのまま、その日は家まで走って帰った。

