音は温かくて美しい。でも、近づき過ぎてはいけない。耳鳴りがするようになり、耐えられなくなってしまった頃から、胸に留めている。

  〇

大学二年生にもなると、授業にもなれ、少しの余裕が生まれる。授業終了を知らせるチャイムが響く。集中力が切れかけていた学生たちは、昼食を取りに席を立つ。先生の「午後も、サボるなよー」は週に三回も聞けば、流石に耳にタコだ。
梅雨が明け、七月の下旬。夏休みという褒美を鼻先にぶら下げた学生たちの会話といえば、何時(いつ)予定が空いているか。春とはまた打って変わった賑わいがある。
「小葉瑠(こはる)ー!夏休み、水族館行かない?」
「いいね、お盆休みは混むからその後にする?」
「オッケー!じゃあ適当に声掛けとくね!また連絡する!」
向日葵のような笑顔をした友里(ゆり)は、教室のドア付近で待っていた、法学部の友達の元へ駆けて行った。「うん」と返事をし、微笑んで彼女に手を振る。
人が自然と寄ってくる彼女は、いつも何人かと一緒にいる。服装や髪色が明るい友達に囲まれていて、本人はお洒落な服装にカジュアルな服装。けれど髪色は真っ黒で、その集団の中で見つけるのは容易い。同じ授業が多く、よく見かける。
彼女とは入学後、すぐに仲良くなった。四月、授業も二週間過ぎた頃、図書館に行った。そこには、大学で見かけた姿とは異なる、凛とした姿の彼女。本を大事そうに読む彼女。彼女のことを知りたくなって、思わず私から声を掛けた。
彼女は推理小説を、私は近代文学を好む。お互い本の感想を言い合わないし、薦めもしない。ただ、一緒の空間で読むことが心地良かった。
適当と言ったメンバーには予想が付く。高校の同級生で大学も同じ夏澄(かすみ)、友里の友達の宙(そら)。二ヶ月に一回、四人で図書館に行くくらい、仲がいい。
全員図書館の静寂だったり、公園の豊かな音を好む。そして、私たちは、同じ空間で本を読むのが好き。無言で過ごす時間を「心地良い」と思える友達ができたのは幸運だなぁ。
勿論、好きなファッションや好きな芸能人などの話もするし、好きなんだけど。