大好きな母の故郷。私の生まれた地。
一回り大きい麦わら帽子を被り重い玄関の取っ手を両手で握る。
居間から私を呼ぶおばあちゃんの声が聞こえる気がする。
でも聞き返す暇はない。体重をかけ、ゆっくりと開ける。
少しずつ開ける眩しい世界。
光や視界いっぱいに広がる青空よりも、楽しみにしていたモノ。
それは身体に流れてくる。
取り零しながらも、吸収して、浸透する。
「朝ごはん要らない!」とうっかり言ってしまいそうに成る程、心は満たされた。
そう、音が心の拠り所だったから。
このまま縋(すが)って居たかった。