絶対、落としてみせるから。


◇◇◇

高橋先輩が私の推しになったキッカケは、もともと好きな漫画の推しキャラにものすごく似ていたことだった。


人間離れした整った容姿も、王子様のような優しい性格も、なんでもできるところも。


全部が当てはまっていて、だんだんとそのキャラと重ねるようになっていった。


そうしているうちに、もう先輩が推しキャラにしか見えなくなってきて、ついには先輩が"推し"として確立したのだった。


そのキッカケの漫画を手にとって、ムフフと眺める。

それから初めのページをめくって読んでいるうちに、ページをめくる手が止まらなくなり、気が付いたら夜の一時を過ぎていた。 


そのおかげで。



「眠すぎる……」



睡魔と気怠さを抱えたまま体育の授業を受けるハメになってしまったのだ。


「寝不足?顔色悪いよ」

「なんかフラフラする……」



バレーボールのネットが歪んで見える。グワングワンと目が回り、平衡感覚を失った。


あ、と思った時には、視界が揺れて床が近付いてくる。


夏波(なつは)……!?」



沙羅の声が遠くに聞こえる。


ゆっくりと瞼が重くなって、自然と目を伏せた。


記憶が途切れる刹那、朦朧とした意識の中、耳が小さく悲鳴を拾った────気がした。