「あのまっすぐな瞳が好きだ。俺以外映さないでほしいと思うくらいに」
果たして兄はこんな性格だっただろうか。
愛の言葉をスラスラと紡ぐような男だっただろうか。
確かに学園の兄は、名前を呼ばれれば笑顔で応じ、手を振られれば振り返し、誕生日のお祝いの言葉がほしいと頼まれれば素直に告げていた。
自分のことも「僕」と呼ぶし、荒々しい態度はひとつもしない。
けれど。
誰か一人に恋焦がれ、頬を染め、躊躇い、独占欲を露にする兄を見るのは初めてだった。
「そう……叶うといいね」
だんだんと溶けてきたアイスの残りを口に入れ、立ち上がる。
静かな夜の闇が、縁側に佇む兄の姿を包み込んでいた。