「なぁ、沙羅」

初夏の夜。
縁側で浮かぶ月を見上げ、アイスを食べていた私は、その声に振り向いた。

「なに?」

兄───高橋玲央は私の隣にどかっと腰を下ろす。

庭から、「ジー」と螻蛄(けら)の鳴き声が聴こえてきた。
しばらくその鳴き声に耳を澄ませる。

沈黙が流れ、私は横にいる兄をちらと横目で見る。
兄は何かを考えるように遠くを見つめた後、おもむろに口を開いた。

「……よくお前の隣にいる女子」
「夏波のこと?」

聞き返すと、「夏波……」と小さくつぶやいてそれきり口をつぐむ兄。
先程の私と同じように月を見上げる兄の頬は、うっすらと赤く染まっていた。

それでなんとなく理解する。


「……好きなの?」

ごく自然に問うてみると、案の定素直な肯定が返ってきた。

「……ちなみに、どこが好きなの?」

茶化すように訊くと、兄は照れ笑いを浮かべて頭を掻いた。