「ど、どういうこと!?何で先輩が沙羅の家にいるの……?」

頭を抱えながら問うと、沙羅はため息をついた。

「だから家に呼びたくなかったのよ……。そうやって騒ぐから」
「へ……?」

間抜けな声が洩れる。
沙羅は、「いーい?」と腰に手を当てた。

「今まで黙っててごめんだけど。高橋玲央は、私の兄」

ミンミンと蝉が鳴いている。
けれど、告げられた言葉の衝撃が大きすぎて、蝉の声は私の耳には届かなかった。

「高橋先輩……沙羅……兄?」

語彙が消失し、単語しか発せなくなった私に、沙羅が大きくうなずく。

「【高橋】って苗字はよくあるからさ、気付かなくても仕方ないかもしれないけど。急に『あなたが大好きな推しは私の兄です』とか言ったら流石に失神しちゃうんじゃないのかな、とか思ったらなかなか言い出しづらくて」

眉を下げ、頭の後ろを掻く沙羅の顔をじっと見つめる。

澄んだ瑠璃色の瞳。スッとした鼻。
薄くて潤いのある唇。

二人が兄妹なら、どちらも信じられないほど美貌であることも納得できる。
たしかに、似ている……かもしれない。
顔のつくりを見れば、血のつながりを認めるしかない。