ガラガラと閉まった戸をしばらく呆然と見つめる。



先輩がいなくなった保健室は、しんと静まり返って、さっきの出来事全てが幻だったのではないかという錯覚に陥る。


けれど、今の一連が全て本当に起こった事実だと証明するものが、私の手首にはあった。


光を受けてキラキラと輝く、シルバーのブレスレット。


そっと撫でると、僅かに先輩のにおいがする気がして、静かに息を吐き、瞑目する。





窓から入ってきた初夏の薫風が、保健室の密かな出会いを乗せて、運んでいった。