「俺を頼ってくれないか?俺が紗良を支えるから」

「…その申し出は嬉しいけど、子供ってね結構お金がかかるんだよね。私は海斗を引き取った以上、海斗に不自由な生活はさせたくないと思ってる。これは親としての私の責任なの。だから杏介さんに迷惑をかけたくないんだ。気持ちだけで十分救われる。ありがとう」

ニコリと微笑む紗良だったが、無理をしているのだろういうことが見て取れ、杏介は胸が痛んだ。

紗良に告白し断られてからも、杏介なりにいろいろ考えたり考えさせられることがたくさんあった。
だけど紗良を好きだという気持ちは変わらないでいる。

口説いてみせるといいながら全然口説けていない自分が情けない。

一緒にどこかへ出掛けたりこうして仕事終わりに会って話をしたり、そうやってまるで付き合っているかのように錯覚してしまうが、結局紗良の気持ちはあの時から全然変わっていないのだと感じて悔しくなった。

「家まで送るよ」

「いいよ、すぐそこだし」

「これは紗良を大事にするっていう俺の気持ちだから」

「……ありがとう」

「……何かあったら一番に俺を頼れよ」

「うん、わかった」

そっと紗良の頭を撫でれば紗良は上目遣いでニコリとはにかんだ笑顔を見せる。
杏介の疲れを癒してくれる魔法のような笑顔。
心臓を掴まれるようなどうしようもなく愛おしい感情がわっと押し寄せてきて、撫でていた頭をぐいっと引き寄せた。

「わわっ」

紗良はバランスを崩して杏介の胸にダイブする。
しっかりと抱きしめられて困惑気味に「杏介さん?」と呟けば額に触れる柔らかな唇。

「おやすみ、紗良」

「……おやすみなさい、杏介さん」

家の前でバイバイと手を振って別れたが、紗良はしばらくその場を動くことができなかった。
口づけられた場所をそっと手で触る。
後から後からどうしようもなく心臓が騒ぎ出して胸がいっぱいになった。

「私、なんで……」

なんでこんなにも胸が苦しいのだろう。
つらい苦しさではない、もっと胸がきゅっとなって体の奥から湧き上がるような気持ち。

これが、愛しさとでもいうのだろうか――。