毎日の負担に加えて土日はラーメン店でのアルバイトがある。
本業の仕事が忙しくなるにつれていろいろと余裕がなくなり、気づけば紗良はバイト先で杏介に会えることが唯一の楽しみになっていた。

季節は夏。
夏の夜でも暑さは昼間よりほんの少し和らいだ程度。
仕事終わりにコンビニの前で立ち話をしていてもじわりと汗が滲む。

「杏介さん、ぎゅってしてもいい?」

「いいけど、どうした?」

「ちょっと疲れちゃって……充電させて?」

紗良から積極的に杏介に甘えるのは珍しい。
一歩近づいた紗良を、杏介は優しく腕に絡め取った。

思ったよりも華奢な紗良と思ったよりも筋肉質な杏介。
ぎゅっとさせてと言ったのは紗良の方なのに、ドキドキと鼓動は速くなる。

今は夏で夜でも汗ばむというのに、二人くっついている感覚は不思議と暑さを感じない。
むしろ肌のぬくもりが心地良いとさえ感じてしばし微睡んだ。

「紗良?」

コテンと杏介の胸に頭を預ける紗良が微動だにせず杏介は声をかける。

「――紗良」

「はっ!」

呼ばれて慌てて頭を上げる。

「大丈夫?」

「なんか気持ちよすぎて一瞬寝ちゃってた気がする」

「前から思っていたけど、働きすぎなんじゃないか?」

「そんなことないよ」

「バイト、続けないとダメなのか?ダブルワークはしんどいだろう?」

「うん……でも、やめたら……困っちゃうし。私が働かないと」

アルバイトを辞める選択肢を考えたことがないわけではない。
実家暮らしで母親と共同生活をしているため派遣の給料で賄えないことはないのだ。

けれど海斗が成長するに従って必ずお金はかかる。
小学校、中学校、高校と、今のうちに貯金できるならしておくことに越したことはない。
そう思って続けているのだけど。

最近は本業の方が忙しく疲れがたまっていることを自覚している。
松田が上司に人を雇ってほしいと申し入れたが、なかなか難しいようだ。