最近の杏介は、毎週とはいかないまでも、土曜の夜まで仕事がある日は必ず紗良の働くラーメン店へ出向いていた。

その頻度は前とさほど変わらないけれど、紗良の仕事終わりに隣のコンビニで待ち合わせをして、少しだけおしゃべりをして別れるというのがいつの間にか日課になっている。

「杏介さん、これ……あげますっ」

満を持してカバンから取り出したチョコはぶっきらぼうに杏介の目の前へ差し出され、紗良は不自然に視線を泳がす。

「……もしかしてバレンタイン?」

「うん。……海斗がぜひにとも」

「えっ?海斗から?」

「……いや、えっと、私から……です。迷惑じゃなかったら……」

変に語尾がごにょごにょと小さくなっていく。
紗良のあまりの照れように、杏介まで照れくさくなって頬を掻いた。
昼間プール教室で散々生徒からチョコを貰ったが、比べものにならないくらいに嬉しい。

「迷惑だなんて思うわけないだろ。ありがとう。じゃあ、ホワイトデーにはどこかデートでもしようか?」

「あ、お返しなんてお構いなく、なんだけど……。うん、デートしたい……です」

「どこか行きたいところある?何か買いたいものとか」

「うーん、そうだなぁ。海斗が四月から年長さんだから、新しいスモックと上靴と、あとTシャツを買いに行きたい」

「紗良、それってデートなの?」

「はっ!」

「紗良って時々天然だよね。面白い」

「いや、ごめんなさい。そうだよね、デート、デート、……デートかぁ」

「いいよ、ショッピングもデートのうちだろ。どこでも付き合うよ」

くっくと笑う杏介は優しく紗良の頭を撫でる。
その柔らかな手つきも紗良に向ける笑顔も、すべてが愛おしく思えて胸がぎゅっとなった。