【あけましておめでとう。今年もよろしく】

そんなメッセージが杏介から届き、携帯を眺めてはニマニマ顔になっていた紗良を見た母親が紗良以上にニマニマとする。

「ねえ、今年はお節作りすぎちゃったと思わない?食べきれないから杏介くんでも呼んでちょうだいよ」

「へっ?き、杏介さん?」

急に出てきた名前にドキンと心臓が脈打ち、思わず携帯を落としそうになった。
しかも変に動揺してしまう。

「年末年始はプールもお休みでしょ?」

「そうだけど、でも実家に帰るかもよ?」

「聞くだけタダだし聞いたらいいじゃない」

「う、うん」

などと母親から誘導されるがまま紗良は杏介に連絡を取り、連絡を受けた杏介は喜び勇んで紗良宅へ訪問したのであった。

「せんせー!」

「海斗、あけましておめでとう」

「あけましておめでとー」

「ございます、でしょ。杏介さん、わざわざ来てもらってごめんね」

「いや、新年から紗良に会えるなんて今年はいい年になりそうだなって思ったよ。あ、お母さん、あけましておめでとうございます。お邪魔します」

「いらっしゃい杏介くん。さあ、あがってあがって」

母に促され、杏介はリビングへ入る。
テーブルの上には所狭しとおせち料理がずらりと並び、伊達巻や昆布巻き、なますなどが彩を添える。

「ちょっとはりきって作りすぎちゃったのよ。だから食べてくれる?」

「お母さんの手作りですか?」

「そうなのよ。手作りだから味は雑かもしれないけどねぇ」

「かいとはねぇ、たまごまいた!おてつだいした!」

「おっ!すごいな。上手にできてる」

「私はローストビーフ作ったんだけど、ちょっと味が濃くなっちゃったかも」

「紗良も作ったの?すごいな。俺、全部食べるよ」

それぞれの主張に杏介はひとつずつ丁寧に答え、「いただきます」とありがたく箸をつける。
おせち料理なんて食べたことがないに等しかった杏介は、物珍しそうに少しずつ取り皿に盛った。
色とりどりのおかずを前にした杏介の箸の行方を、紗良はドキドキとしながら見守る。

「うん、美味い!」

杏介がニッコリ笑うのを見て、ようやく紗良は胸を撫で下ろした。