依美からもらった映画のペアチケットを前にして紗良はうむむとスケジュールを確認する。
杏介の平日休みに合わせて休暇を取らなければ映画には行けないわけで、そんなタイミング良く休暇が取れるだろうかと心配になった。

けれどこのチケットを無駄にするわけにはいかない。
くれた依美にも失礼だと思った。
そしてなにより、自分の気持ちを認めてしまった今は、何が何でも杏介と出かけたいという欲望が勝ってしまう。

「杏介さん、今月のお休みいつですか?」

「土日の?」

「じゃなくて、平日の……です」

杏介はシフトが書き込まれたカレンダーを紗良に見せる。
紗良は自分の仕事との兼ね合いでちょうどいい日を指差した。

「この日……」

「うん?」

「えっと、あの……」

よく考えたら、紗良からどこかへ行こうと杏介を誘うのは初めてだった。
いつも杏介から「どう?」と聞かれるばかりだったことを今さらながら実感して変に緊張してくる。

「この日に何かあった?」

「映画に……つ、……付き合ってください」

「えっ?」

杏介はもう一度聞き返したい衝動に駆られるが、目の前の紗良は真っ赤な顔をしてプルプルしている。
紗良から誘われることは初めてで、それだけでざわりと心臓が音を立てた。

「……もちろん、喜んで」

にやけそうになる頬をぐっと抑え、にこっとした上品な笑顔で大人ぶる。
紗良の前では格好つけたいのだ。

紗良は「ありがとうございます」と、赤らんだ頬のまま嬉しそうに笑った。