依美は小さく息を吐き出す。
こんな時に水を差すものでもないなと思いながらも、愚痴りたい気持ちの方が勝った。
そのために映画のチケットを持ってきたのだ。

「私さ、もう彼と別れるんだ」

「え、なんで?」

「たぶん浮気されてる。仕事が忙しいってのも嘘」

はあ、と依美は大きなため息をついた。
その横顔は憂いを帯びているようで、紗良の胸は苦しくなる。

「だからさ、その分楽しんできてよ。使わないともったいないじゃん、そのチケット」

「依美ちゃん……」

順調にお付き合いしているように見えていた依美でさえ上手くいかないのだ。
恋愛とはやはり難しいものなのでは……と考えたところで背中をバシンと叩かれた。

「やだ、何暗い顔してるの?私は吹っ切れてるから大丈夫よ。ちょっと愚痴りたかっただけ。次は絶対いい男ゲットするし」

「……依美ちゃん意外と肉食だね」

「何言ってんのよ。紗良ちゃんもこれくらいガツガツ行きなさいよ」

「あ、はは。がんばる」

二人はぎこちなく笑い合う。
残りのうどんを啜りながら、それぞれ思いを馳せた。