「そう、かも」

口に出してしまったら、ますます顔に熱が集まってきているような気がした。
うどんを食べているから暑いとか言い訳できるレベルではないような気がする。
ドクンドクンと速くなる心臓は止められそうにない。

「いいじゃん」

「で、でも、付き合いたいとか思ってなくてっ。私にはほら、海斗がいるし」

なぜだか依美に対して慌ててしまう。
子どもを養っている自分には恋愛など必要ないと思っていたのに、なぜこんなことになるのか。
紗良の気持ちは複雑に混じり合って、自分のことなのに自分がわからなくなってしまう。

あまりにも初々しい紗良に若干羨ましさを感じつつ、依美は自嘲気味に笑う。

「まあ、複雑な事情はわかるし海ちゃんへの責任もあると思うけど、紗良ちゃんはもう少し自分の幸せを考えた方がいいと思うよ」

「自分の幸せ?」

「そう、自分の幸せ。とりあえずこれあげるから、杏介さん誘ってみなよ。海ちゃんがいるときといないときでは性格違うかもしれないし、男はちゃんと見極めないとね」

依美がポケットから取り出したのは二枚の紙だ。
何だろうと、紗良は受け取る。

「映画のチケット?」

「そう。平日限定ペアチケット。彼氏と行こうと思ったんだけどさ、しばらく仕事忙しくて平日休めないって言うから」

「もらっていいの?」

「いいよ。私も親からの貰い物だし」

「ありがとう」

大事そうに受け取る紗良はやはり初々しい。
そんな彼女を見て、依美はやはり自嘲気味に笑った。