「気をつけないと食われるぞ」

「食われるってなんだよ」

「だってお前、人気者だもんなぁ。いやー、売れっ子は違うねぇ」

「茶化すなよ」

「いや、実は俺もあったんだよ。旦那とは冷めてるからって体求めてくるの」

「はぁ?」

「嘘みたいだろ?なんか、筋肉質が魅力的なんだと」

げんなりとした顔で大げさにため息をつく航太。
まさかそんなことがあるのかと杏介は疑うが、そんな二人の会話に「男性もなかなか大変ねー」とまったりお茶を飲みながら年配の深見が会話に参加する。
そして更に杏介の後輩である森下リカまでも興味深げに身を乗り出した。

「深見さんもそういう経験ありですか?」

「あるわよ。子供プール教室よりジムのお客さん。わざと胸にぶつかってきたりとか」

「いやー最低!」

「さすがにチーフ呼んで注意してもらったけど。まあ、昔の話だけどね」

「私も聞いてくださいよぉ。この仕事してるとなかなか出会いがないじゃないですか。ジムのお客さんと仲良くなって付き合ったんですけど、バツイチ子持ちだったんです。しかも隠してて、バレたら今度は私に母になってほしいとか言ってきて~無理って断りました。だって子供にも会ったことないんですよ!ありえなくないですか?」

「ただの母親役がほしかったのかもね。災難だったわね」

「子持ちって隠せるんだなー」

「……案外わからないものなのかも」

そう、杏介が紗良のことを子持ちだと知らなかったことのように。
そんな大っぴらに『バツイチ』だの『子持ち』だのと言う人は少ないだろう。

しかし、一人で子供を育てるとやはり相手が欲しくなるものなのだろうか。
リカの元彼のように、『子供の親』を求めてしまうものなのだろうか。

ふと思い出されることがある。
杏介の父もそのタイプだった。