「――まあ、ご親切にチケットをいただいて、車まで出してもらったの?まあ~」

「とても楽しかったですよ。海斗くんは水が大好きで紗良さんに泳ぎを教えていました」

「そうなのよー、この子ったら海ちゃんと違って昔から水が苦手でね。二十五年生きてきて学校以外のプールなんて初めて行ったんじゃないかしら?水着だって持ってないから慌てて買いに行って――」

「お母さん!もう、恥ずかしいからやめて!」

「だからあんなに必死に浮き輪を持っていたんだね?」

「きょ、杏介さんまでからかわないでください!」

紗良は頬を染めながらぷんすか怒るが、そんな姿が杏介には大変いじらしく映り思わず目を細める。

わいわいと騒ぎすぎたからだろうか、ふいにむくりと起き上がった海斗は目をこすりながら「あれー?せんせー?なんでいるの?」と呟く。

時計を見れば思ったよりも長く石原家に滞在していた。

「おはよう、海斗。じゃあ僕はそろそろおいとましようかな」

「やだ!まだあそぶ!」

「こら、海斗わがまま言わないの。先生だって忙しいのよ」

「やだやだー」

海斗は杏介の膝の上に座り、頑として動かなくなった。

「海斗!」

「あらあら、よっぽど楽しかったのねぇ」

「海斗、今度はどこ行きたい?また先生が連れてってあげるよ」

「ほんと?」

「ああ本当。約束だ」

杏介は小指を差し出す。
海斗は小さな指を杏介の指に絡めてブンブンと勢いよく振った。

「ゆーびきりえんまんーうーそついたーらはりせんぼんーとーますー」

真剣な顔で言い間違えながら歌う海斗にほっこりと癒やされながら、大人たちは顔を見合わせてふふっと微笑んだ。