「そうねえ、その人の好きな食べ物は?」

「……わからない」

「家族はいるの?」

「独り身だって言ってたけど、実家暮らしか一人暮しかはわからない」

「じゃあ年齢は?」

「わからないけど、同じくらいか少し年上かなぁ」

依美の問いに真面目に答えていた紗良だったが、依美の顔は質問を重ねるごとに曇っていく。

「ちょっと、わからないことだらけじゃないの。どんな関係なのよ」

「海斗のプール教室の先生なの」

「プール教室?じゃあプロテインとか?」

「いや、それはないでしょ。もう飲んでそうだし」

「じゃあ、お酒?」

「飲むかわかんない」

「タバコ?」

「吸ってるのは見たことない」

依美は深いため息を落とす。

「もー、やっぱりわからないことだらけじゃないの。難しいわ」

「でしょ。だから困ってるのよ。依美ちゃんはいつも彼氏に何をプレゼントしてるの?」

「え?うちの彼氏は甘いもの好きだからチョコさえ与えておけば機嫌がいいわよ。あとは、私自身、とか?」

「……?」

キョトンとした紗良の背をバシンと叩く。

「もー、冗談が通じない子っ。ウブなのか真面目なのか、どっちなのよ」

一呼吸おいてようやく理解した紗良は頬を赤く染めて慌てる。

「え、ええっ、ごめん。そういうのと無縁だから頭回らなかった」

「ちょっとちょっと~、無縁とかいいながら、そのプールの先生とはいい感じなんじゃないの?」

「違うってば。海斗がお世話になってるだけだよ」

「えー、本当に?」

「本当だってば」

そんなんじゃないのにと何度も否定するも調子に乗った依美に散々からかわれ、紗良は妙に気恥ずかしい気分になってしまった。