「えっと……?」

保育園にお迎えに行き、先生から手渡された海斗が制作した『父の日の似顔絵』を見て、紗良は固まった。

「海斗くんには父の日とは言わずに、大好きな人の絵を描こうねって言ったんですけど、皆と同じがいいって言うので……」

「あー、そうなんですね……」

色画用紙で枠組まれた『父の日の似顔絵』には、クレヨンで描かれた顔っぽい何か。男か女かわからないけれど、髪の毛らしきものは短いから男なのか、と思わなくもない。

それはいいとして。

枠には先生の字で『おとうさん、いつもありがとう』と書いてあった。

「誰を描いたのか聞いたら、タキモト先生って言うので、タキモト先生ありがとうって書こうかって提案したんですけど、どうしても皆と同じ、おとうさんいつもありがとうがいいって言うので……すみません」

「いえいえ、こちらこそ、気を遣っていただいて、すみません」

しばらく先生と謝り合戦をしてしまった紗良だったが、何か聞き捨てならない言葉を聞いたような気がする。

「海斗、これ誰を描いたの?」

「たきもとせんせー」

「……プールの?」

「うん、プールのせんせー」

「そう……」

プール教室で滝本先生にやたら懐いているとは思っていた。
けれど、絵に描くほど好きだったとは。

(あの先生、面倒見よさそうだもんなあ)

なんてぼんやり考えていると……。

「かいと、せんせーにプレゼントしたい」

「は?」

「たきもとせんせーに、これ、わたす」

「……いや、それはちょっとどうかと思うよ」

紗良は当たり障りのない言葉でサラっと流そうとするが、海斗は引き下がらない。

(滝本先生が好きなのはわかった。わかったけど、あげられないでしょ。だって、おもいきり『おとうさん、いつもありがとう』って書いてあるし。さすがにもらう方もドン引きでしょ)

心の葛藤が顔に出るほどに紗良の眉間にはシワが寄った。