杏介の実家は隣の県にあるが、 高速道路を使っても二時間ほどかかる。
本来なら、とても天気の良い絶好のお出かけ日和になりテンションも上がりそうなところ、紗良と杏介は若干神妙な面持ちである。
海斗だけが無邪気にDVDに夢中になっている。

「はあ、緊張する ……」

車を運転しながら、杏介は胃のあたりを軽く押さえた。

「いや、私の方こそ緊張してるんだけど」

紗良も大きく息を吐き出す。
初めて会う相手の親、しかも子連れで。
緊張しないわけがない。
さらに杏介と親の関係があまり良いものではないと聞かされれば、なおさらだ。
それは杏介とて然りで――。

「こんなことを言うのもあれなんだけど、何年も両親に会ってなくてさ……」

「でも会いに行くって電話したんでしょう?」

「うん。父親は元々寡黙な人だから、ああ、わかったって一言」

「お母さんは?」

「父親から伝えてもらったから直接は話してないんだ。あと、今まで一回も……お母さんって呼んだことない」

「じゃあ、なんて呼んでるの?」

「……あの、とか、ねえ、とか?」

言いづらそうに言葉を濁す杏介の姿が新鮮すぎて、紗良はポカンとしてしまう。
そして何故だか笑いが込み上げてきた。

「杏介さんって意外と拗らせてるんだ?」

「そうだよ。黒歴史だらけだよ。幻滅しただろ?」

「まさか。逆に安心した。だって杏介さんってかっこいいしなんでもスマートにこなしちゃうしプール教室でもイケメンで優しいってお母さんたちにすごく人気があるんだよ。だから私、杏介さんと一緒にいて見劣りしたらどうしようってときどき不安になるもん。そういう弱い部分も持っていてくれなくちゃ肩が凝っちゃうよ」

朗らかに笑う紗良に、杏介はバツが悪そうな顔で頭を掻く。