「ごめん紗良、常識ない時間だった」

「ううん、大丈夫。どうしたの?」

「これ、海斗にと思って」

杏介はコンビニで買った袋を紗良に手渡す。
ずっしりと重い袋の中には数種類のゼリーとヨーグルトが入っている。

「こんなにいっぱい?」

「熱だとあんまり食べれないかもと思って」

「ありがとう。海斗がすっごく喜ぶと思う」

「海斗、大丈夫?もう寝てる?」

「まだ起きてるよ。お熱が下がらなくてなかなか寝れないみたい。アニメ見てる」

「そっか。紗良も気をつけて。何かあったらすぐ連絡して。俺にして欲しいことはない?」

「大丈夫だよ」

紗良はニッコリと笑う。
いつも一人で抱え込む癖のある紗良は、どうしたって弱音を吐かない。
それを杏介もわかってきているため、困ったように眉尻を下げた。

「お母さんそろそろ一般病棟に移るんじゃないのか?」

「うん、明日移るって」

「行った方がいいんだろ?」

「そうなんだけど、さすがに行けないかなって。風邪のウイルス持ち込むわけにはいかないもの」

「じゃあ俺が行く。紗良の代わりに」

「でも杏介さん仕事――」

「そういうのは言いっこなしな」

紗良の言葉を途中で遮り、杏介は強引に決める。

紗良のためだけではない。
杏介にとっても紗良の母親は大切な存在だ。
自分の母と上手く接することができなかった杏介を非難することなく受け入れてくれ、なおかつ自分を息子の様に気遣ってくれる。

そして石原家は、杏介が焦がれた家族のあたたかさを教えてくれる大事な場所なのだ。