母の容態に変化はなく、これ幸いにと海斗の迎えの後に病院に寄ることが日課になった。

面会はほんの数分。
まだICUに入っている母は左手足と軽い失語症があるが、見た目元気そうな姿で紗良と海斗が来るのを喜んだ。
順調にいけばもう明日にでも一般病棟に移るかというところ。

そんな矢先、海斗が熱を出してしまった。
突然の熱は保育園児にはよくあること。とはいうものの、数日前から海斗は鼻を何度もすすったりくしゃみが多くなったりはしていた。さすがにお見舞いに行くのは止めておかないとと思っていたらこのざまだ。

土曜のプール教室を休んだことで、すぐに杏介から紗良に連絡がある。

「海斗、どうかした?」

「うん。保育園で風邪をもらったみたい。夏になるとよく流行るアデノウイルスだって」

保育園でも流行っているし、プール教室でも静かに流行っているため杏介はなるほどと納得する。
仕事帰りにコンビニにより、ゼリーやヨーグルトを適当に買って石原家へ寄った。

しんと静まり返っている石原家のインターホンを鳴らそうとして杏介は出しかけた手を一度ひっこめる。
時刻は二十一時。
杏介にとってはなんでもない時間だが、海斗はもう寝ているかもしれない。

紗良に電話をかけて呼び出すと、カチャリと小さく音がしてもうパジャマ姿の紗良がそろりと顔を出した。