紗良と海斗はシングルの布団を隣同士くっつけて寝ている。
今日は海斗が紗良の布団にもぐり込んできた。

「さらねえちゃん、てぇつなご」

「うん、いいよ」

ぎゅっと握ると海斗はえへへと笑う。
それほど大きくはない紗良の手だが、海斗に比べたらしっかり大人の手。
その手の中にまだ未熟な海斗の小さくて柔らかい手が包まれる。

(可愛いな)

そんなことを思っている間に海斗は手を繋いだまますぐに寝てしまった。

いつも土日は二十二時までアルバイトで、紗良が帰る頃には海斗は寝ている。
寝かしつけは母に任せていたのだが、今までどうやって寝ていたのだろうか。
母がいるから大丈夫だろうと思っていたが、本当は寂しかったのだろうか。

怒濤のような一日が終わり、しんとした室内。
母がいない、海斗と二人きりの夜。
やけに静かでもの悲しい。
あれこれと浮かぶ心配事に紗良は眠れないでいた。

(ここに杏介さんがいてくれたら……)

昼間は杏介が駆けつけてくれて、紗良は本当に心強くてたまらなかった。
杏介がいるというだけでほっとしたし安心した。
いつの間にこんなに弱くなったのだろうか。

(私はもっと強くて一人でも平気だと思っていたのに)

得も知れぬ不安が紗良を襲い胸を締めつけていく。
母のことも海斗のことも、これからの生活のことも。
すべてが重く暗い闇に飲み込まれて、その重圧で押しつぶされそうになる。

じわりと滲む涙を拭い、大きく息を吐き出す。
なにもかも一筋縄ではいかない。

海斗を引き取るとき、生半可な意思ではなかった。
けれど育ててみて直面するイレギュラーな事態は予想以上に多い。

母の脳梗塞再発だって、一回目の脳梗塞の時に医師から言われていた事。
再発する可能性もあります、と。

忘れていたわけではない。
油断していたわけでもない。
それでも現実に直面するとこんなにも心が苦しくなるなんて。

紗良は枕元に置いてあったイルカのぬいぐるみを手繰り寄せる。
ぎゅっと抱きしめればなぜだか心が少しだけ落ちつくような気がした。