夕方になっても全然お腹はすかなかった。
けれど海斗がいる手前、夕飯を抜くわけにはいかない。

ひとまず海斗と一緒にお風呂に入ってから簡単に夕飯の準備を始める。
と、紗良の背後に静かに海斗が立っていた。

「ん?どうしたの、お腹すいた?」

「さらねえちゃん、いまからおしごといくの?かいとひとり?」

「今日は行かないよ。お休み。おばあちゃんもいないし、海斗ひとりにできないでしょう?」

海斗はおもむろに紗良のシャツの裾をぎゅっと握る。
紗良は何事かと首を傾げた。

「……ごめんなさい」

「え、なにが?」

「かいとがひとりでおるすばんできないから、さらねえちゃんがおしごといけなくてごめんなさい」

「え?やだ、そんなのいいんだってば。私だって仕事なんかより海斗と一緒にいたいし。海斗のせいじゃないんだから」

「きょうはいっしょにごはんたべれる?」

「食べれるよ」

「いっしょにねれる?」

「もちろん」

「えへへ、やったー」

海斗は紗良に抱きつく。「だっこして」と甘えるので、夕食作りの手を止め海斗をぐっと持ち上げた。
来年にはもう小学生になるというのに、まだまだ幼い海斗。
ずいぶん重くなったけれど、甘えん坊は変わらない。

それでも、海斗は海斗なりに何かを感じ取っていたのだろう。
幼いからわからないのではなく、わかる範囲で理解して自分で考えている。

(海斗もいろいろ我慢してきたんだろうな)

海斗は紗良が土日の夜に仕事をしているのを理解している。
今日本来なら仕事があることをわかっていたし、いつもなら祖母と過ごすこともわかっている。
だからこそいつもと違い紗良が家にいることが海斗を不安にさせたのだ。

けれどそれは、もしかしたら今まで必要以上に海斗に負担を強いてきたのではないだろうかと、紗良の胸に刺さった。

(仕事もお金も大事。だけど、ごめんなさいだなんて、そんなことを思っていたなんて……)

海斗に不自由させたくない。
だから働く。
お金はあればあるほどいいのだ。

だけど――。

お金がすべてではない。
確かにあるに越したことはないけれど、それでも今一番大事にしなくてはいけないのは海斗の気持ち。
きっと、そうなのだろう。