金曜日の夜はお酒を飲むことにしてる。殊更理由は無いのだけれど、週末に近付くと、ついつい手がサイドボードのボトルに伸びてしまう。水割りを濃い目に作って3杯程飲むと、元々それほどアルコールに強いほうではない私は随分良い気持ちになってしまう。そうなると、私の中に潜んでいて普段は決して姿を見せないLIBIDOがすっくと起き上がって、まず手始めに服を脱がせにかかる。等身大のウォールミラーの前に立ちひとしきりポーズを取り、自己満足に浸った後、ベッドにベタリと張り付いて暫く目を閉じ次に何をしようか考える。もうすることは決まっているのだけど。
 電話をする。誰に? 誰に電話をするか、それを考えているところ。電話して、そしてどうする? 夜を一緒に過ごそうと誘う。だから男でなければならない。
 記憶している電話番号の中からお好みのところをピックアップ。
「はい、原田です」
 呼び出し音は3回。それでも遅いと思いながら自分の名前を言う。まだそれ程遅い時間ではないので相手は驚かない。
「どうした?」
「なんでもない。ただ電話しただけ」
「飲んでるな」
「当たり」
「どれくらい飲んだ?」
「ダブルで3杯」
「ハハハ、酔ってるな」
「そうかな、わからない。でもとっても良い気持ち」
「明日は休みか?」
「休みじゃない」
「なら早目に切り上げて寝ろ」
 原田明、大学からの付き合い。ごく普通の大人の関係。
 彼は私が今何を要求しているのか知っているし、その要求に応じようと思っているくせに、こんな風に素っ気なく振る舞って私の本音を引き出そうとする。だらだらと思わせぶりでもったいぶった押し問答が嫌いな私は、彼の受け身態勢を無視して本題に入る。
「うちに来てよ、一緒に飲もう」
「うーむ」
 明は私をじらしたりしない。ダメな時はダメと言う。この「うーむ」はOKの意味。
「俺は明日休みだからトコトン飲むぞ」
「眠くなったら寝るし、朝になったら起きて会社行くわ」
「待ってろ」
 電話はぶっきらぼうに切れた。私を粗末にしているのではなく、本当に急いで私の部屋に向かうという優しさの表れ。
 トリコロールの皮のライダースーツに身を包み、ブーツを履き、グラブとヘルメットを手にして400ccのオートバイに向かって歩く明の姿が私には見える。5分で着く。