ねぇ、先輩。


そんな私に、彼は「言っとくけど」と口を結んだ。

「全然痛くねぇからな?」

……うわっ。バレてる。

実はさっき心のなかで、痛そうだな、と思ったところだ。
表情に出ていたのか、「やっぱ思ってたのかよ」と笑われてしまった。

決まり悪くて目を背けると、長距離走のようすが再び視界に入る。

「ん?」

私の視線の先を、彼も辿る。

「お、長距離走やってる」

そう言ってしばらく眺めていた彼は、ふいに「アイツ」とつぶやいた。

「え?」
「先頭走ってる、アイツ。走るのよっぽど好きなんだろーな」

彼の視線は、まっすぐに六花ちゃんに注がれていた。

私は、六花ちゃんを見る彼の横顔に釘付けになる。

彼の横顔に光が差し込んで、瞳が宝石のように輝いている。


「あ」

ふと彼が声をあげて、また自然と私の視線も校庭に向く。

「あ……」

そして、同じように微かな声が洩れた。

六花ちゃんの隣に、ショートヘアの女子が並んでいた。
すぐに陸上部の来栖さんだと気付く。

来栖さんが走るたび、艶のある黒髪が揺れる。
その顔には余裕の笑みが浮かんでいるように見えた。

「あれはたぶん、友達に合わせて走ってたパターンだな」
「え?」
「軽く一位になれる距離を保って、体力温存してたんだろうな」

……ああ、だからあんなに楽しそうなのか。
まだまだ体力は残っているんだ。きっと。