ねぇ、先輩。


ぽつりと先輩がつぶやいたとき。

「生徒会企画、【青春花火】を開始します」

アナウンスの後、ステージに現れた生徒会長。

「高橋先輩!!」
「玲央くんだ!カッコいい!」


かき氷やリンゴ飴を食べていた女子たちが、ステージに注目して一気に声をあげた。

「みなさん、楽しんでますかー?」

マイク越しにきこえてくる会長の声に「いぇーい!」と声が上がる。

「我々生徒会本部では、ひと夏の思い出として【青春花火】を打ち上げます。学校、花火師の皆様、地域の方々たくさんの協力があって今日を迎えることができました。ぜひ楽しんでください!」

生徒会長の言葉の後、ドン、と夜空に花が咲いた。

辺りから歓声が湧き上がる。


「綺麗……」


思わず声が洩れた。

ちらと先輩に目を遣ると、柔らかく妖艶な微笑が降ってくる。

上にも横にも綺麗なものがあって、視線が迷子になりそうだ。


「富柚子」


ふと名前を呼ばれたかと思うと、腰に手がまわり、ぐいと引き寄せられた。
突然の密着に、頬に熱が集まる。


「……俺、実はちゃんと学校通ってなくてさ。富柚子と出会ったあの日は、久しぶりに学校に行った日で」


花火を見上げながら、静かに先輩の言葉を聞く。


「中学の初めまでサッカーやってたんだけど。怪我でできなくなってさ。それがマジでしんどくて。死のうかな、って思うくらいに」


ドン、ドンと次々と夜空を彩る花。