ねぇ、先輩。


「じゃあ、お前を名前で呼ぶ奴は俺だけってことか」

先輩はニコッと白い歯を見せた。

「富柚子」

柔らかい響きで、その名前が紡がれる。
じんわりと、心にあたたかいものが溶けていくような気がした。

……ああ。

好きな人に名前を呼ばれると、こんなに心地が良いんだ。

長年抱えてきた名前のコンプレックス。

それは彼が【富柚子】と呼ぶことで、一瞬にして誇らしい名前に変わった。

自分の名前が好きになる。

まるで魔法だ。


「あーあ。お惚気を見てる私、何やってんだろ」

六花ちゃんが頬杖をつきながら声を上げた。
途端に恥ずかしくなって、おもむろに口を開く。

「そういえば、先輩と六花ちゃんって知り合いだったの?」

私の問いかけに、六花ちゃんは頬杖をついたまま答える。

「あー、いとこだよ。アカリのお母さんと私のお父さんがきょうだいなの」

衝撃の事実に目を見開いた。
苗字が違うから全然わからなかったけど、そう言われてみたら似ている……かもしれない。