ねぇ、先輩。


「お前、南って名前じゃないのか?」
「先輩こそ、【日向】はお名前ですよね?」

互いに質問し、互いにふるふると首を横に振る。そして、苦々しい表情をするところも同じだった。

「あんま名前言いたくないんだけど……」
「私もです……」

なぜなら自分の前があまり好きではないから。
六花ちゃんにもニックネームで呼んでもらっているくらいに、自分の名前が嫌なのだ。

「でも、流石に苗字で呼び合うのもな……」

先輩の言葉に、うなずいた。
先輩は意を決したように私に向き直る。

「俺の名前は、朱李(あかり)。日向朱李だ。女みてぇな名前だから、あんまり好きじゃないんだけど」
「そんなこと、ないです……!」

まさにそのとおりだ、と思う。

先輩は私を照らしてくれる、世界でたったひとつの"あかり"だから。

「綺麗なお名前ですね」
「……お前は?」

一瞬躊躇って、ふ、と息を吐く。

「……富柚子(ふゆこ)です。南富柚子」

今どき【子】がつく名前ということも、名前の漢字も響きも嫌で、どうして親はこんな名前をつけたのだろうと何度も何度も思った。

だから数少ない友達には【フユ】と呼んでもらっているし、身内や親戚にも【フユ】や【フユちゃん】と呼んでもらうようお願いをしていた。