ねぇ、先輩。


それに長距離走は、練習と本番タイム計測がそれぞれ三回ずつある。

つまり、タイム計測の三回のうち、一回だけ計ればそれが記録になる。


……走ることなんて好きじゃないのに三回も計測するとか、そんな地獄味わいたくないよ。



よって「仮病」は、極力苦しくない選択をと考え抜いた末、私が辿り着いた至高の方法だった。



ガラガラと扉を開けると、保健室はしんと静まり返っていた。


「失礼しまーす……」

一応小さく挨拶をして、保健室に足を踏み入れる。

ホワイトボードには、【ただいま校内見回り中】という可愛らしい文字が並んでいた。


(月島先生、いないのか……) 



側にあったソファーに浅く腰掛け、おもむろに窓の外に視線を遣った。