ねぇ、先輩。


待ち合わせ場所に彼────日向先輩の姿を見つけて、たちまち鼓動が早くなる。

(変なところないよね)

もう幾度となく確認した身なりを、もう一度確認する。

髪も崩れてないし、大丈夫。

深呼吸をして、私は彼のもとに歩み寄った。

「おまたせしましたっ……」

日向先輩が硝子玉のように綺麗な瞳をこちらに向けて、その顔を柔らかく綻ばせた。

「遅くなってすみません……」
「いや。俺も今来たとこだから」

私を気遣ってそんな言葉を口にする先輩は、いつもと同じくピアスをたくさんつけている。

ただひとつ、いつもと違うところは、先輩の格好が私服だということ。

夏休み中に開催される麗涼祭は、制服ではなく私服で参加するのだ。

日向先輩は、予想に反して、シンプルカジュアルな格好をしていた。

てっきりピアスをつけているくらいだから派手な格好かと思っていたけれど、意外と目立たない格好で吃驚(びっくり)する。


「え、変な格好してる?俺」


じっと見ていたからか、先輩が訊ねながら自身の服を見下ろす。

私はぶんぶんと首を横に振った。

「違います!シンプルなのも似合っててカッコいいなって思って」
「は……?」

目を見開く先輩に、私はにこりと笑いかけた。

「行きましょう、先輩」

先輩はしばし固まっていたけれど、「おう……」と小さく返事をして歩き出した私の隣に並ぶ。