ねぇ、先輩。


「……焦った」

予想とは反する微かな声が降ってきた。

「マジ焦った……。お前、ほんと何やってんだよ……」

そのままギュッと抱きしめられる。

「せん、ぱ……」

うまく声が出せない。
先輩は私を抱きしめる手に力を込める。

「戻ってきてすぐに、お前殴られかけてたらビビるだろ、普通に」

先輩はゆっくりと息を吐いた。

「そもそもなんであんなことになったんだよ」
「あの人が、あの綺麗な人の容姿を罵ったから……」
「止めに入ったわけか」

こくりとうなずくと、先輩は身体を離して苦笑した。

「凪はあんな言葉に落ち込むような柔なメンタルじゃねぇよ。咄嗟に向かっていったのはカッコよかったけど、もう危ないことすんな。俺の心臓がもたない」


それから、ポン、と頭に手がのった。


「悪い。今日だけは許せ」


確かめるように、何度も優しく撫でられる。
あたたかくて大きな手が心地よかった。

先輩はしばらくそうしていて、ふと思い出したように私を見る。