「相当喉が渇いていたんですね」
飲みっぷりの良い私に男性は少しだけ表情を緩めた。
「お恥ずかしいです……。出かける前にちゃんと水分補給してくればよかった」
水ようかんが売り切れてしまっては大変だと慌てるあまり、そこまで頭が回らなかった。
「あのっ、本当になんてお礼を言ったらいいのか。そうだ、お名前を教えてもらえませんか?」
「いえいえ、大した事してませんから」
「でも……。あっ、飲み物のお金だけでも」
「いいです。気にしないでください」
私がバッグにをかけようとすると男性はすぐに制止した。
「ですが……」
そのとき、私は初めてまじまじと男性の顔を見つめた。
少しもさっとした黒髪。黒縁眼鏡の一見すると大人しそうな容姿の男性。
少しだけ長い前髪の間から覗く眼鏡の奥の瞳は涼し気な二重瞼で、長いまつ毛と色素の薄い瞳をしていた。
肌は透き通るほど白くて女の私ですらうっとりしてしまいそうなほど綺麗で整った顔をしていた。
「あの……、なにか?」
「ああ、すみません!ジロジロ見たりして」
中世的な雰囲気の男性につい見惚れてしまった。
「もしかしたら俺、警戒されてますか?」
「警戒……ですか?」
「すごい適当な格好なので」
男性が苦笑いを浮かべる。
白いTシャツに紺色のスラックス、足元はサンダルといういで立ち。
「平日の昼間にこんなだらしない格好でいるのってちょっとって思いますよね」
「そんなことありません」
「俺のこと不審者だって思わなかったんですか?」
「まさか!そんなこと思いませんでしたよ!」
私の言葉に男性は少しだけ驚いたように目が奥の目を丸くした。