大体この男、どうして昨日の今日でここにやって来たのだろう? 予定外のこととか嫌いそうなのに。


「……ああ。もしかして、マリアの服でも取りに来たんですか? すみませんね、昨日渡してなくて。だけど、残念ながら碌な服はありませんよ。殆どがわたしのお下がりですから。あの子はこれから聖女として国のために働くんでしょう? 服ぐらい新しいものを買い揃えてやっても――――」

「実は、マリア様がお食事をなさらないのです」


 神妙な面持ちを浮かべ、神官はそんなことを言う。


「昨夜、神殿に到着してからお食事をお出ししたのですが、一口も手を付けておりません。朝食も……」

「……そんな深刻にならんでも。まだ初日でしょう? 一食二食抜いた所で、人間死にゃしませんって」

「そうかもしれません。ですが、マリア様はジャンヌ殿の料理が食べたい、それ以外は食べないと仰るのです」

「はぁ?」


 嘘でしょう? ワガママ娘め。そんな風に育てた覚え、わたしには無いぞ。
 大体、これまであの子がわたしの料理を食べたがったことだって一度もないんですけど。上品な料理が口に合わなかったってことだろうか?


「……カレーかシチューかグラタンかパスタ的なものを作ってやったら、それで良いと思います」


 わたしのレパートリーなんてそのぐらい。簡単、時短。安くて美味くて腹いっぱいになるもの作っときゃ、マリアもそれで満足するでしょ? まあ、材料は前世と全く同じものは手に入らないんだけど。


「カレー? シチュー? なんですか、その料理は? 一体どうやって作るのです?」

「えっ? あぁ……」


 そう言えばここでは前世の常識は通用しないんだっけ。現世の母親はポヤポヤした魔女で、ツッコミも何も無かったから忘れていた。似たような料理はこの世界にもあるけど、わたしの料理が食べたいって話だもの。それじゃダメかもしれない。


「ようは煮込み料理です。パスタとグラタンは所謂麵を使った料理のこと。レシピを用意しますよ。それで何とかなるでしょう?」


 面倒だけど仕方がない。紙とペンを魔法で運び、ベッドの中でレシピを書く。ずぼらだから調味料やら野菜の量なんて、計って作ったことが無い。料理人が適当に配分してくれると良いんだけど。