「何でまたそんな俗なイベントを神殿で?」

「そりゃあ当然、マリア様が神殿を出られないからですよ」


 サラリとそんな事を言われ、わたしは思わず顔をしかめた。


「なにそれ。全くもって当然じゃありませんけど。子供に夜ふかしさせる必要なんてないし、そもそも、どうしてマリアを夜会に出す必要が?」


 夜会ってのはつまり、シンデレラでいう舞踏会みたいなものでしょう? 貴族の社交の場ってやつでしょう? 子供なんてお呼びでない。大人が楽しむためのものでしょうに。


「ふふ、これはトップシークレットなのですがね――――実は、陛下がマリア様と王太子殿下を引き合わせたい、と思し召しなんですよ」

「――――はぁ?」


 わたしは思わず目を瞠る。

 神官様め、なぁにがトップシークレットだ。
 声を潜めるどころか、侍女たちにまでバッチリ聞こえるように言ってるじゃない。神殿勤めのくせにミーハーなのか、一気に色めき立っているし。


「引き合わせたいってのはつまり、将来の配偶者にってこと? マリアを王太子殿下の妃に?」

「そういうこと。さすが、話が早いですね。護国の聖女が妃になれば、国は安泰。そういう風潮が有るんですよ」

「はぁ……さいですか」


 一応相槌は打ったものの、前世が純正日本人のわたしには到底理解できない世界だ。

 だって、わたしが生まれたときには、天皇は象徴になって久しかったし。結婚相手は(表向き)自由に選べるみたいだし。
 福沢諭吉だって『天は人の上に人を造らず』なぁんて教えを説いていたし。
 子供の頃から結婚相手を決めておくなんて、本人の意志はお構いなしってことでしょう?